『 境界の淡さ 』


サパーンクワエって、クルンテープ(バンコック)の空港寄りのところに友達が住んでてね。
昔、カーオサーンで沈没してた時に知り合ったんだけど…。
暇だったから、行き付けの旅行代理店(ってゆーかーディスカウントティケット屋だよね)にたまってたんだけど、ある日、ナッタヤーって経営者のおばさんが「日本語の看板を書け」って言うんだ。
「あ、おいら、そういうの得意かもしれない…」って思って、書きだしたんだけど、なんか、「文字ばかりじゃなー」って感じのものが出来あがり、ふと外を見ると、一人の日本人青年がフラフラと…。
思わず飛び出して、「キミィ、漫画描けるぅ?」。 で、飛行機とバックパッカーの絵を描いてくれたのがこの友達さ。

彼、初めてのタイ旅行だったのだけど、おいらと知り合ったのが運のツキで、その後タイで暮らすようになるんだよね。
タイ語もおいらよりはるかに出来るようになって、タイ人に日本語を教えるようになった。で、教え子の一人が、「先生。私の家、地続きでもう一軒あって、使ってないので、そこでも教えてください」ってことになって、結構大きな二階建てに一人で住んでたんだよ。
で、ある時、訪ねたら、「よかったら泊まっていって下さい」って言われて、そのままいつしか居候、ねっ。

彼は、朝8時頃に学校へ行く。
おいらは、もう少し後で起きることが多かったな。
で、ある日。おいらは起きて下に降りたのだ。ab naam(水浴び)をするためにね。
hong naam(水の部屋)は一階の奥にあるのだけど、階段を降りてUターンをしようとした時に、視界の隅に何かを感じた!
で、ゆっくり見直すと……「!」
見知らぬ人が、玄関入ってすぐのところの、まぁリビングルームみたいなところ(っても前にも言ったようにあくまでだだっ広いワンルーム)にいるんだよ。
ちゃんとソファーに座ってさ、おまけにおいらが昨日、そごうで買って来た週刊ポストまで手に取って…。
悪びれない顔してニコニコ笑ってるんだ。
おいらは、「え? 誰?」「ひょっとしてMクンの知り合いか?」「にしても、黙ってヒトの家に上がるか?」…なんて、結構パニクってたよ。ま、当時は、ね。

で、「Mクンの友達?」って訊いたんだけど。
ただ、ニコニコしてるだけなんだ。
同じことを繰り返すんだけど、どうやらMクンを知らないようで…。
で、おいらは、「用は何?」って、かなりストレートなタイ語を放つ訳だけど、その時に至って、この闖入者は、なんか初めて自分の目的を思い出したみたいな顔してさ。
「あ、旦那さん。バンコクポストを取って下さい」
って、勧誘員なんだもの…。ビックリさせないでよ、ホントに。

って、思ったのは、でも、この時だけでね。
もう、その後、こんなようなことは日常茶飯ってことが分かったんだけどね。
タイ人って、なんか、『境界』が曖昧なの。
自分の家の敷地と他人の敷地なんて、日本だったら、もう血を見たり裁判沙汰だったりするもんね。
タイではなんか、「タイの土地はすべて王様のもの」みたいな感覚があってね。
勿論、私有財産だし、登記や権利書もあるんだけど、なんか元々の感覚がこうだから、のんびりしてるってゆーかー、まぁ、境界が淡いんだ、自分の物と他人の物の境界がね。

だから、貸してあげたCDプレーヤーがなかなか返ってこなかったり…もする。
逆も大有りでね。
その内、どっちの物かわかんなくなるんだけど、ま、必要な時にお互い使えればいいじゃんってことになる。

田舎の町のバスの終点の前にある食堂…。
あ、ついで言っておくとおいら、終点が好き。なんか、バスターミナルで、適当なバスに乗ってね、終点まで行くんだよ。
何処だかサッパリわかんないんだけど、ま、そこのヒトに訊くのがもっとも正しく分かるんだから、いいんだ。(って、ホントにいいのか?)
食堂があればいい方で、まずホテルやゲストハウスなんてないんだけど、ここはタイだからね。何も心配要らなくて、なんとかなるんだよ。

で、食堂だけど。
その時は、とってもおなかが空いていたのと、勿論、安いってことも分かったんで、三品ほどのおかずと、デザートにココナツミルクのたこ焼きみたいなのとか、まぁおいらにしては珍しくいろんな物をテーブルに並べていた訳さ。

で、店内には、4人ほどのグループが居たりもしたんだけど…。おいらが食ってる時、突然、おいらの肩越しにニュッと手が出て来るんだぜー!
「なに?なに?」って思ってるはなから、その手は、おいらのたこ焼きをつまんでさ、ホイッって、食ってやがる…。
「これは、おいらのー!」って、心の中で思いながら、せめて、隣のテーブルの客達に、「こいつ、こんなことするよー!」って、眼で非難の同意を求めるんだけど…、別に表情に変化がないんだよ…。
…っと思ってたら、甘かった。
そっちからも手が伸びて、また、たこ焼き、食われてしまった。
で、「甘いね」なんて呟いて、おいらに笑いかけるんだもの…。

おいら、最初、むかついたんだけど……「待てよ…」と考え直した。
で、おもむろに笑い返して、そっちのテーブルに行き、一番高そうな料理の肉のカタマリをむんずと掴んで、黙って食べた。
すると、「キャホー」みたいな歓声が上がり、喜んでくれること喜んでくれること。
ビアスィンなんかも勧められ(ちなみにおいらは呑めない)、その夜はおおいに盛り上がったね。勿論、寝たのは村人の家さ。

国境と言うものがある。
日本だと東西南北、海の何処かしらが国境ってことになるが…。
大抵の国は、隣に別の国があるんだよね、陸続きで。
で、アフリカみたいに勝手にファラン(白人系外国人)が直線的に線引きした国境でなくてもさ、なんか、国境って、日本人の考えるイメージとは随分違うんだよ。(日本だと、誰が乗ってるか分からない船は、銃撃したりするんだけど…。)
特に境界が淡いタイなんかだとどうなるか。
例えば、北の方の西っ側に、メーサイって町がある。
川っぺりのゲストハウスに泊まってたんだけど、対岸で朝だと洗濯してるしさ、夕方には一家揃って水浴びしてる…。
なんか、ノスタルジーを感じさせるいい風景なんだけど…。
この一家はビルマ人だよね。
で、手を振ると、子供なんか、泳いで来ちゃうからね。
おかぁさんやなんかは、ロンジーたくし上げて、バチャバチャと歩いて川渡って来るしね。あ、おいらに会いに来る訳じゃなくて買い物だけど。

そう言えば、ゲストハウスから少し離れた場所だったけど、「ロープ渡し」があったよ。タイ・ビルマ(ミャンマーって誰も呼ばないのでそれに倣う)国境の川に、ロープが渡してあってさ。それをたぐりながら小船で渡るのさ。
おいらにも「乗れ乗れ」って言われたけど、一応、出入国管理法違反だからって、その時ちょっと遠慮したんだけど。乗っておけばよかったな、話の種に。

初めてアパートを借りて住んだ時のこと…。
安いものを…って言うと、当然、『日本人ばかり』のコンドー(CONDOMINIUM)じゃないよね。
あ、そんな所って、おいら、タダでも住みたくないけど…。
で、まぁ、とにかく安い所ってことで探したから、当然、居住者はタイ人ばかりだろう…って、思ってた。
ところが、そうでもないんだよ。
隣には、オミズ系のおねえさんが住んでたりして…、あ、このヒト、少し痛んだ物なのだろうけど、まだ10本ほど残ってるバナナの房を、下の空き地に、ドーンって投げてたなぁ。ああいう豪快な棄て方ってのも、タイならでは…と、当時は思った…。
あ、そうそう、アパートの住人の話しなんだけど、その内、いろんな国籍の人が住んでることがわかってね。

こういうのも、なんか、『境界が淡い』って思わない?
別にコンジープン(日本人)だ、とか、XX人だとか…考えてないんだよね。いろんなヒトが住んでる地球だもの、ってゆーかー……そんなことも、考えてないんだ! (多分…)


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