『 Yに〜のこと 』
Yに〜と言う男がいた。
イニシアルがYで始まる名前に「兄さん」の「に〜」を付けて、誰もが「Yに〜」と呼んでいた。
おいらも、おいらよりうんと若いのに、「Yに〜」と呼んでいた。
キップの良さ、男気、憎めない笑顔と人なつこさ、そして自分のことを「恐がり」と言う正直さ。
そんなことが彼をして「Yに〜」と、みんなに言わせていたのだと思う。
タイをこよなく愛する男のひとりだった…。
今日は、そんなYに〜の命日なのだ。
前回に続いて「ゴメン」の2連打になるが許して欲しい。
今日は、ちょっと湿っぽい話になる。
Yに〜とは、タイをキーワードにしたある掲示板で知り合った。
まだOFF会などもなく、板の上で何回か言葉を交わしただけなのに、いきなり「猪の肉を送るから」なんて言って来る人の良さでビックリしたもんだった。
勿論、遠慮したけれど、後になって聞けば、まだ顔も見たことがないって板友7、8人の人が送ってもらってたって聞いて…、
ああ、なるほど、ここは「ほとんどタイ人」って人が集うところだったよ…と、後悔したりしたもんだけど…。
それは、まぁいいとして。
おいらとは、タイが好きってことは当然として、バイクが好きってことでも気が合ってね。
でもおいらのバイク好きは、ただ風を感じて走るのが好きってだけで、機械のことはゼンゼンわかんない。
それがYに〜になると、今ではもう動かない古いバイク(クラシックほどいい)を買って来ては、また命を吹き込んで走らせると言う本格派。
挙句の果てには、すぐエンストして、直しに出しても今一つ調子の良くないおいらのバイクのことを、直してあげる、なんて。
「じゃ、その内、転がして行きます」
「いや、今度暇が出来たら車で取りに行ってあげるよ」
「とんでもない! こちらから…」
なんてやりとりもあったな……。
おいら達の家は、バイク(車でも、まぁ同じだが)で3時間ほどの距離にあるってことが分かって、まず来てくれたのもYに〜だった。
奥様のお母様を、何処かにお連れになる用を兼ねてのことだったけれど。
で、「おかぁさんはちょっとコーヒーでも飲んでて」って、
放っておいて(同席はしてるのだけど…)、おいら達は初対面であることも忘れて話しまくってたね、その夜は。
「daawさん、今度一緒にタイを走ろう!」
おいらが、何処へ行ってもまずレンタルバイクを探すって話をしたら、彼は目を輝かせて言ったもんだ。
「うん、きっと!」
「どの辺がいいかなー?」
「イーサーンの方が手薄なんですけど、どうですか?」
「ああ、いい! あの町と町の距離感とかはツーリングにもってこいって、前から思ってた」
「それはよかった…それにおいら、ロケハンもしたかったんだ。バイクでっていうのが、どうしてもしたかったんだ…」
って言ったら、Yに〜は即座に分かってくれたね。
あの自在さと目線が、ロケハンにうってつけなことを。
それからはことあるごとに−−−っても、板での書き込みとメールのやり取りがほとんどだったが、イーサーンのツーリング話しで盛り上がっていた…。
「町に着いたらさ。まず雑貨屋で、よく冷えたビアチャーンを買ってさ。その辺の歩道と車道の間に(注:たしかこう言った)座り込んで、道行く人を眺めながら呑むんだ」
「そんなことしたら、たちどころに人が寄って来るよー」
「それが面白いんじゃないかー、タイは」
「あ、そだね」
なんて…。
それが、結局は写真を抱いてのしょぼいツーリングまがいになってしまった…。
ごめんよー、Yに〜。
知り合ってから半年もしないうちに彼は入院することになって…。
標題 : がんばるぜ〜
ごめんなさいね。
せっかくお友達になれたのに
もう帰って来れないかも知れません。 (まじだよ〜ん)
で、絶対にタイをツーリングしましょうね。
約束だよー!
このメールの返事はいらないよー
だってもう見れないもん。 へへ
まだパジャマ姿でいるから奥さん怒ってるー! こわ〜
もうホントにこれで終わるね。 んじゃ!
携帯は奥さんが持ってるからね〜
あっ! 奥さん爆発した〜〜 んじゃ んじゃ んじゃね〜〜〜
そして、そのまま遠い国へ旅立ってしまうなんて…。
入院の前の日。
家に行ったんだよね。バイクで。
ひとしきり話してて、ふと居なくなったと思ったら、庭でおいらのバイク洗ってんだぜー。コンプレッサーで泥とかこそげ落としてさ。
参っちゃうよなー。
「レストアは退院してからねっ」
って、ニコッって笑って…。
でも、
「映画、ゼッタイ作るんだよ!」
って、言った時の目は、笑ってなかった…。
なんか、祈るような目をしてくれていた……。
ああ、Yに〜!
おいらは、あの目を忘れない!
「ウン…」
って言ったからにはこれも約束だね。
きっと果たすよ。
その約束。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注:『しょぼいツーリングまがい』
彼が旅立った後、おいらは彼の写真を持ってタイに行き、クルンテープ市内とパッタヤーでバイクに乗ったが、まだイーサーンに行き着かない内に怪我をしてしまい…よって、未だこの約束は果たされていない。
PS:
この時(Yに〜の旅立ち後、おいらがタイに行った時)、おいらは、Yに〜の奥様から、メモを預かった。
メモには3つの名前と電話番号があった。奥様は「もしYにゆかりのある方なら、知らせた方がいいのかどうか…」と迷っておられたのだった。
タイに入って電話をしてみた。
一人はガイドを業としている男性だった。
「残念だけどお名前に覚えがありません…あ、ひょっとしたら中古バイクの事を聞いていた人?」
いま一人は明るく弾んだ声の日本人の女性だった。
「ごめんなさい。思い出せなくて…」
もうひとつはお店の番号で、聞いてみると食堂だった。聞こえてくる雰囲気から大衆食堂のようだった。
で、書かれてたのは10歳ほどの少年の名で、「少し前まで働いていたがもう辞めた」とのこと。
今度来る時、何か持って来てやるって、多分Yに〜のことだから約束したんだろうなー……。
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